エゾシカ革の魅力 ~その美しさと実用性~


(合同会社)EZOPRODUCT 代表 菊地 隆(2022.7.24)


現在、日本に生息する二ホンジカはざっと256万頭 [1] 。その1/3である67万頭が北海道に住むエゾシカである。一方、捕獲数は全国で60万頭[2]。その内、エゾシカは13万頭[3]。これら命を落としたシカたちの皮は有効に利用されているのだろうか。エゾシカレザー第一人者である菊地 隆氏にエゾシカ革の魅力と周辺事情をお聴きした。


 [1] R3.3/15 環境省資料「最新の日本ジカとイノシシの個体数推定及び分布調査の結果等について」

[2] 2019年度環境省資料

[3] 北海道環境生活部自然環境局野生動物対策課エゾシカ対策係HP



講座風景の写真
講座風景

捕獲されたエゾシカ13万頭のうち、皮活用されたのは7%に過ぎない。革業界では、日本 国内で見る鹿革製品の97%は海外から輸入された鹿革である。7種ある二ホンジカのうち、エゾシカが一番使い易い。同じ種でも動物の身体は北へ行く程、大きくなるため(ベルクマンの法則)活用できる革面積も大きくなる。本州のシカは個体が小さい上に、積雪が少ないため活動量が多くなり、その分、傷も多いので利用できる部分が少ないからである。


シカ革製品の数々の写真
シカ革製品の数々

「エゾシカ革と畜産革の状況」

シカ革は吸湿性・通気性に富み、しかも柔らかくて、しなやか。この優れた特徴から、古くから武道具、巾着、袋物などとして愛用されてきた。しかし、欧米風の生活スタイルが定着。肉食の日常化が進めば進むほど。牛や豚の皮が豊富に供給されることから、畜産革に市場を奪われた。現在、豚革は需要と供給のバランスが取れている状況にある。

一般的に靴などで一番多く利用されているのは牛革だが、その内側は、ほぼ全てが豚革。内側をよく見ると表面に豚革の証となる三つごとの毛穴が確認できる。 


「他の皮とエゾシカ革の比較」

・切断した断面を拡大するとアフロヘアーのような繊維模様

・他の革と比べて軽い。しかし、縫製が難しい。日本は殆ど捨てている(捨てているのは日本だけ)。

 アメリカなどでは、ウエスタンシャツ、汎用の広い分野で利用されている。乾燥地帯のペコスブーツやグ

 ローブなどに利用されている。汗をかいても乾きが早い。

・表面からの押す力には弱いが、引張りには強い(伸びる) 

・グリップに優れている。牛革の表面は強いが、硬くて柔らかさがない



「メス鹿とオス鹿の革の違い」

ディアスキン(deer Skin)→メスの鹿の革。メス鹿の革は柔らかくなめらか。

バックスキン(buck Skin)→オスの鹿革を意味する。硬めで傷が多い。

総称として後ろ(back)を意味するバックスキンは本来は革の裏面を表面に出したもの。スエードの事である。

※表側(銀面)にバフをかけて起毛させたものをヌバックという加工である

革の半分以上はメス。個体数管理(増やさない)のためには、メスを撃たなければならないため。

 肉もメスのほうが柔らかく美味しい。オスの肉は固い。


「革の種類」

革の種類は大きくスタンダード(一般革)とエキゾチックレザーの2つに分類される

スタンダードレザー…家畜の副産物として得られる革。牛、豚、羊、山羊、馬 

エキゾチックレザー…家畜以外の脊椎動物から得られる革。クロコダイル、ヘビ、ダチョウ(オーストリッチ)

※欧米では、シカはスタンダードレザーの扱い(畜産、家畜種であるため)。

 しかし、日本の野生種である二ホンジカは、日本ではエキゾチックとして扱ってもよいのではないか)

ヴィーガンレザー…動物の革を使わないレザー素材のこと。フェイクレザー。 

①人工皮革合成皮革植物性レザー(リンゴの皮、パイナップル、サボテン等の葉の粉末を石油製品で混ぜて作る)


「皮革の卸しの単位など」

下地の単位…10×10㎝の正方面積を「1デシ(ds)」

 牛1頭で500デシ。エゾシカで100デシ。本州ジカで60~70デシ。 

・ヤクシカ、マゲジカなど南部の日本ジカは40デシ。

・卸単価(目安)

牛1デシ:高級180円~250円(海外製など)、程度良100円、普通65円~85円

豚1デシ:45円~60円

山羊1デシ:60~70円 

シカ1デシ:120円(海外物で100円~120円)

熱心にメモを取る受講者の写真
熱心にメモを取る受講者


「道内での一般的な製品化工程」

・ハンターが解体所へ →皮を剥ぐ→塩漬けする(個人事業者は冷凍での保存)→貯まったら皮業者が関西へ送る→ここからが「下鞣し」→塩抜き(水戻し)→ここから先、色々な薬品を使う→石灰・ミョウバンなどで膨らます(毛を抜きやすくする)→毛抜き(牛などでは薬で毛を溶かす→脱

 脂(クロムやタンニンなど)→下地(ウエットブルーやホワイト)→染色→仕上げ、水出し→加工


・道内の革卸屋は、講師の知る限りでは「北海皮革」と「麻生商店」。他は個人で生皮を調達し、革にして製品を作っている4ライン(各年間100200枚ほど)。講師は、産業素材としてエゾシカレザーを制作しているため、年間35006,000枚をレザーにしている(塩漬けした皮を本州に送るには送料だけでも高額:500枚送るには25万円。冷凍での輸送は更に高額)。


「皮と革の違い」

・皮→動物の皮のこと。(放置しておくと腐敗する)

・革→靴や鞄などの材料として使用されているものが「革」。皮を鞣したもの。 

 腐敗しやすい動物皮を「鞣し」という加工技術で、「皮から革へ」と耐久性のある素材に変えている


EZOPRODUCT製作の椅子写真
EZOPRODUCT製作の椅子

「合同会社 EZOPRODUCTの取り組み」

当社に於いて新冠町で下地処理まで実施する。地域創生、エゾシカ産廃物軽減、そこから皮革としての

 利活用工程に入る。当社と新冠町、久保田組、TSUNOOとの連携にて行われる事業。

・下鞣し工場、製品制作アトリエ、各々の機材・機械は既に購入済みで始動待ちの状態。

・薬品はタンニンのみを使用(クロムなどは排水により環境に悪影響を与えるからである)。

・下地までを終えてから兵庫等に送り、染色や素地づくりの工程となる。

 ・兵庫、姫路の鞣し関係者から支援・連携・協力・緩和を得られるようになるまで、前職を含め、およそ

  20年を費やしている。

 ・こちらが希望する素地を先方と協議していく。アパレル、ファニチャー、バッグ、教材など、それぞれ

  に合ったレシピで素地を製作(価格交渉を含む)


EZOPRODUCT製作 「グローブ」の写真
EZOPRODUCT製作 「グローブ」

「鞣しの種類」

 主に「タンニン鞣し」と「クロム鞣し」の二つ がある。

タンニン鞣し

 植物性のタンニンを使用。工程に手間がかかり期間も長くかかるが、繊維を丈夫に太くすることができる。経年による色の変化を楽しめる。

・クロム鞣し 

 クロム化合物を使用して鞣す。短期間で加工できる。柔らかく加工しやすい。経年による色の変化はない。