11/3. 道立博物館の「エゾシカ展」で、麻生大学いのちの博物館上席学芸員 高槻成紀氏の講演「植物を食べるシカ、シカに食べられる植物」をお聴きしてきました。高槻先生は学生時代に、金華山に行き、こんなに大型で美しい動物はいるだろうかと感嘆しつつ、長らくシカと植物の相関性を研究されてきた方です。素人の知識で理解できたことだけをメモを頼りに書き残しておきます。(聞き逃した部分も多々あり)
シカは可愛い、守れという情緒的感覚は通用しない。森にとっては恐ろしい動物でもあるからだ。シカは毎日大量の植物を食べ、しかも高密度で生活するので、植物群落は強い影響を受ける。食草を失ったチョウなどの昆虫類も減る。花と虫のリンクが絶たれる。シカの影響は植物だけでなく、植物の変化を通して動物へも影響を与えていく。かつては、鹿がいなかった高山でも今では、希少な高山植物が絶滅の危機にさらされている。
シカは植物を食べるが、植物の方も食べられてばかりはいない。食べられないための対抗措置をとる。特殊な有毒性物質を含み自分を守る化学的防衛。クリンソウ(サクラソウ科) ハンゴンソウ(キク科)、レンゲつつじ、トリカブト、フタリシズカなど。或いはトゲを持ち、寄せ付けない物理的防衛をする。とどのつまり、森の中に繁茂するのは、こうしたシカが食べたがらない植物群だけ。森は単調になり、生物多様性は失われる。シカにとっても、仲間が増えること自体がシカの首を絞める。食べ物が無くなるのだから。
紀伊半島の大台ケ原ではシカが木の皮をはいで木が枯れてしまったため、森林に棲む鳥がいなくなり、草原を好む鳥が増えた。奥多摩では、森林の下生えが豊富なところにいるオサムシなどの昆虫が減る一方で、死体を食べるシデムシ類や糞を食べる糞虫などが増えるという変化も見られた。(シカの死体が増えるからか?)
植物が無くなるだけに止まらない。山や森にとって最も深刻なのが、鹿が地面の草や笹など食べてしまうことによる影響だ。増えすぎた鹿は、かつて地表を覆っていた草や笹を食べつくし、土を剥き出しにしてしまう。石が一個あるだけで、枯れ葉一枚あるだけで、その下にある土は守られ、雨はじっくりと土に浸み込むのだが、立っている植物が無くなり、枯れ葉も残らず食べられてしまうので雨粒が直接地面を叩く。土壌は流出、大雨が降れば山崩れ、斜面崩落が起こる危険性が高くなる。こうなると防災上の問題だ。
日本の山は、もともと急斜面。土留めをしていた樹木や下草が減少すれば、ストッパーが無くなるのだから、傾斜が急な場所ほど土砂崩れが発生し易くなるのは当然だ。今年(2019)の災害も深刻だった。枯死していても樹は立っているが、大雨が降れば全て倒れる。
植物の中には食べられたら再生しようとする働きをするものもある。山の上ではブナ、タケカンバ、下の方ではミヤコザサ。ミヤコザサは重要な食べ物→豊富にある。供給が安定している。栄養価が高い。蛋白質を沢山含んでいるから、冬季用食物として最適。蛋白質が5%以下になるとシカは生きられない。しかも採食に耐性がある(再生可能)。笹は常緑。植物が怖いのは風と乾燥。雪がある方が良い。背丈の低い笹を雪が保護してくれる。雪の中は0℃以下には下がらない。シカと笹は組み合わせが良いのだ。
芝群落では、食べる速度早い。シカにとって食べ易い。小型で地下茎発達。食べられても大丈夫。芝というのは本来、刈らなければ成長しない植物なので、シカが食べるほど逆によく育つ。一度シカに食べてもらって糞となって出てきたほうが、発芽率が高い。要は、シバはシカによって種子散布をされていることになる。ただし、日陰に弱いという性質があるので、日照が十分であるという条件付き。
11月3日。最盛期は過ぎていたが、それでも博物館近辺の紅葉は美しかった。
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