7月15日、北海道環境生活部エゾシカ対策課主査 山田浩二氏と主任の名畑太智氏のお二人を講師として「北海道におけるエゾシカ対策について」の学習会がありました。
今回のお話は、個体数の急激な増加により、農林業に深刻な被害をもたらし北海道の喫緊な課題となっているエゾシカ対策や、その有効活用に関する幅広い解説でした。エゾシカに関する「生態」や「被害状況」その対策としての「エゾシカ対策推進条例」、さらには道産の天然素材としての「エゾシカ肉の有効活用」について広く学ぶことが出来ました。
「エゾシカの生態」について
高い繁殖率
平成24年度の推定生息数は59万頭、メスジカは2歳から寿命(約15年)まで毎年出産、妊娠率90%以上。シカは獲らずに放置すると4~5年で2倍になる。
また、シカは 一夫多妻制であり、仮にオスを捕獲しても代わりはいくらでもいるため、翌年生まれるシカの数は同じになる。
よって、エゾシカの個体数管理としての捕獲は、オスの捕獲は生息数の抑制にはほとんど効果がなくメスの捕獲が重要である。
「エゾシカによる被害について」
平成24年度の農林業被害額は63億円!!(H19の32億円から急増)
作物別割合から見ると、「牧草の被害」が大半を占めている。
また、高山植物の食害(生物多様性の保全への悪影響),エゾシカと車の衝突事故(参考)「エゾシカ衝突事故に注意!」,JRの運行遅延(参考)「何故シカは鉄路に侵入するか」,街中に出没による都市機能の一時的な麻痺による損害など、63億円以外にも数字で表現できない被害も多く存在する。
「新たな担い手の不足」
エゾシカの個体数管理の役割を担うハンター数は、エゾシカ頭数の増加や農林被害の増加の一方で年々減少している。狩猟登録者は、昭和53年の20,620人⇒平成24年の8,305人へと半減している。
また、その登録者数の半数近くが60代以上と、ハンターの高齢化も進行しており、新たな担い手の不足が危惧されている。
「北海道エゾシカ対策推進条例」について
近年のエゾシカによる被害の深刻化を踏まえ、一時しのぎの対策ではなく、またエゾシカを地域資源として捉えようとする動きから、恒久的な対策を構築する必要性が生じたため、エゾシカ対策を総合的かつ計画的に推進することを目的とした「北海道エゾシカ対策推進条例」が4月1日から施行となった。
○条例の目的
人とエゾシカの適切な関係を築き、地域社会の健全な発展に寄与すること。
○条例の基本理念
生物多様性への配慮、価値の最大限活用、道民意見の反映など5項目を規定。
○道の責務と道民の役割の明確化
道は市町村、関係団体等の連絡調整や技術的な支援を行い、道民や事業者はエゾシカ対策に対する理解を深め、道が実施するエゾシカ対策に協力するものとする。
○基本施策
第 8条:状況に応じた個体数の管理。
第 9条:緊急期間及び特定重点対策地域。
生息数および農林業被害が著しい増加時における捕獲等の重点的な推進
第11条:有効活用の促進。
関係機関と連携協力して食、観光などの分野で有効活用するための措置
第10条:捕獲等の担い手の確保。
計画的な捕獲従事者の育成確保、道外狩猟者の活用措置
第12条:被害防止策の推進。
被害状況、交通事故等の実態把握、被害防止策の実施など
この条例を根拠として、道では「エゾシカ捕獲推進プラン」を策定、関係機関と連携のうえ、平成26年度目標捕獲数を142,600頭と定め、平成28年度の生息数を38万頭まで抑制することを目指している。
「エゾシカの有効活用について」
「エゾシカ対策推進条例」により、エゾシカの有効活用が規定されているが、その有効活用の1つとしてのエゾシカ肉は、牛豚肉と比較して「高タンパク、低脂肪、鉄分が豊富」で、貧血改善効果など優れた栄養特性を持っている。
また、その部位によって味わいが多彩な料理に活用することができる特徴も兼ね備えており、旬のジビエ料理の道産の食材など資源として価値を見出し活用することは、北海道の産業の活性化の観点からも重要であるが、まだ捕獲頭数の1割程度しか食肉処理施設で処理されていないのが実情である。
道では、エゾシカ肉の衛生的な食肉処理として、従来野生動物は検査対象外であった「狩猟→食肉処理場」までのプロセスにおいて、H18に全国に先駆けて「エゾシカ衛生処理マニュアル」を策定し、食としてのエゾシカ肉の安全性の確保を図っている。
また、エゾシカ肉の衛生管理状況の評価制度として、エゾシカ協会が独自基準を満たし、かつ「エゾシカ衛生処理マニュアル」に基づく処理状況の現地確認ができた施設を認証する制度や、獣医師が処理の現場でエゾシカ個体の異常の有無を確認する、北海道独自の「エゾシカ検査」がモデル事業として試行されており、道民がエゾシカ肉を安全で安心して消費できるように努めている。
しかし、エゾジカを食肉やその加工品として消費拡大するにあたり、野生のエゾシカ肉は季節や捕獲状況により品質にバラツキが生じ計画的な販売などが難しいことや、牛・豚と異なり1頭から生じる肉の量が少なく1頭あたりの生産額が低いこと、さらには流通・販売経路が未整備などの課題も残っているとのこと。
「エゾシカ肉の消費拡大に向けて、道が実施している取組み事例」
①毎月第4火曜日を「シ(4)カ(火)の日」に設定し、大人から子供まで多くの道民にエゾシカ肉に親しみを感じてもらえることを目標に、認証制度で処理された肉を、「シカの日」に参加登録店(249店)にて販売・調理を行っている。
②「北海道ジビエ・エゾシカ料理コンクール」の実施
エゾシカ肉の魅了を普及するため、道内関係者に向けてエゾシカ肉コンテストを実施、昨年度は1月29日に実施
(グランプリ:エゾシカモモ肉のローストポワブラードソース秋の味覚添え)
③企業とのコラボレーションによる、エゾシカ肉料理の多方面への発信
エゾシカ肉のイメージ・認知度のUPおよびブランド力向上のために実施。
・ローソン北海道とのコラボ弁当
・NEXCO東日本サービスエリア対抗エゾシカ料理コンテスト
(道内の各SAで提供している、エゾシカラーメン、エゾシカランチなど)
・グランドハイアット東京での、エゾシカ料理によるクリスマスディナー
(首都圏でのジビエ料理の高級食材として浸透を図る)
公益社団法人 札幌消費者協会「北海道エゾシカ倶楽部」 代表 武田佳世子
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