皆さんは、エゾシカの利活用の話しになると、何を思い浮かべますか。まずはお肉、そして革や角の工芸品だと思います。しかし、シカは全身が宝!シカ角は漢方薬の素材として驚くべき薬効成分を持っているのです。10月定例会での会員研修で、当倶楽部会員の鄭権氏(薬学博士)より、エゾシカ角についてのお話がありました。これは、その講義から得た感想です。
鹿角を原料とした漢方薬は、2,500年位前から現代にいたるまで、健康長寿・滋養強壮の補薬として、ずっと中国を中心に世界中で飲み継がれてきました。男性はもちろん、女性にも効果があるそうです。
現在日本の市場では、医薬品と健康食品、そして角を煎じて作る膠(鹿角膠)から取れる接着剤など色々ありますが、ほとんど100%近く、中国からの輸入に頼っています。
原料の鹿角が中国では常に品薄なため、非常に高価なものとなっています。
そこで鄭権さんが目を付けたのが、北海道のエゾシカ角でした。
毎年ほとんどが利用されることなく、廃棄焼却処分されてしまう厄介ものでしたが、この角を原料として、漢方薬やサプリメント等を製造してみると、輸入品と比べて段違いに高品質なものが出来ることがわかったそうです。日本のシカの中でもエゾシカは特に品質が良いようです。
北海道ではエゾシカを撃つ場合、オスではなく、メスを狙います。メスの方が肉が柔らかいし、個体数管理のための駆除ではメスを撃たないとシカは全く減らないからです。
また廃棄する際にも角の重量は相当重く、その分駆除にもお金がかかります。
普段厄介ものとして見向きもしなかったエゾシカの角に、こんな素晴らしい薬効が隠されていたなんて、晴天の霹靂でした。
鄭権さんは、2017年にエゾシカを使った国産の生薬素材の製造に成功し、現在本格的な増産のためにエゾシカ角の買い付けをしているそうです。(文責:棚川伊知郎)