撮影場所:北海道長沼町
■日時:2019年8月3日 午後9時頃
車窓から、ヘッドライトに照らされ見上げている君が目に入った。
暗闇の中ひとりで道路の端でうずくまり、動けなくなっている。
足の骨が見えているひどい怪我だった。
それでもまだ動こうとする君。
この怪我で再び道路に出てしまえば、さらに轢かれてしまうだろう。
そして事故を起こした人間は、怪我をした君のことをみて、顔をゆがめるかもしれない。
破損した自分の車を見て、君のせいにしてくるかもしれない。
そんなことはさせない。
君は何も悪くないんだ。
大丈夫だよ、助けを呼んだよ、もう少し頑張ろう。
寄り添い、身体を撫でて励ました。
その時の私が出来る、精一杯だった。
せめて、人間の温かさが伝わっていたらいいな。
本当は、私が助けてあげたかった。
■生きものの情報
エゾシカ(蝦夷鹿):北海道全域に生息するシカ。偶蹄目シカ科シカ属に分類されるニホンジカの亜種。
近年、温暖化の影響から全道的に積雪量が減ったことと、持ち前の繁殖力で爆発的に増え、深刻な農林被害を及ぼしたり、交通事故が多発している。「絶滅危惧種」の時代を乗り越えたエゾシカは今、「害獣」とされ駆除されている。
車とエゾシカの衝突事故は2018年度、北海道全体で2,834件にのぼり、3.5時間に一度事故が起きている計算になる。自然豊かな北海道だが、怪我をした野生動物を保護する態勢が整っていない。
私は命の重さは皆平等だと考える。害獣だからと、軽視してはいけないのではないだろうか。
人間のせいで傷ついた野生動物を、助けられる人間になりたい。
(湯村 晃尚美)
湯村さんは藤女子中学高等学校の1年生で生物・科学部で活躍中。将来の夢は、人為的怪我や疾患を治療する野生動物専門の獣医です。当エッセイは、生物科学学会連合「第一回 生きものの " つぶやき "フォトコンテスト」に応募、入選されたもので「生物の科学 遺伝」2020年3月発行号(74−2)に掲載されます。