手にしているのはJR北海道車内誌「 THE JR Hokkaido」。列車に乗るたびに持ち帰る。貼り絵で彩られた四季折々の表紙が、巡り来る季節の変化を旅立つ人に告げてくる。頁を繰れば、そこは「知」と文学の世界。紀行文やエッセイに綴られる文章は、ため息が出るほどに美しい。ワクワクしながら表紙をめくり、毎回、用意された特集のテーマ世界に浸っていく。10月号の特集は「釧路市博物館80周年のきらめき」。釘付けになった箇所がある。「人間にとって真に学ぶべきものは、この自然界に存在するもの以外にない」という初代館長の片岡新助氏の言葉。胸えぐられる思いで自らを振り返る。たとえば森。森が作り出す酸素、土、そして水。どれ一つ欠けても生きていけないが、此の事実を真剣に考えたことはあっただろうか。母なる海は自らを汚濁しつつ人間世界のあらゆるゴミを受け入れてきた。それら自然の恵みに対し、私たちは何を以て報いただろうか。目の前の富を追い、飽くなき利便性追求のために自然を利用、追い詰めてきたのではなかったか。
自然はいつまでも受け身ではいない。逆襲は既に始まりつつある。地球温暖化はその最たるものだろう。遅きに失したとはいえ、これからでも自然を学び、自然との共生社会はどうあるべきかを考えていかなければならないと思う。
過日、DVD「アフター・デイズ」を観る機会があった。2008年にドイツで作られた作品だ。或る日、地球上から全ての人間がいなくなったら地球はどうなるかを科学的知見から想定し、映画化したものである。自然の強靭な破壊力と復元力には驚愕せざるをえない。
人がいなくなると、数日で発電施設が止まる。飼われていたペットは野生化。やがて家屋は廃墟となり、野生生物たちの住処すみかとなる。道路のコンクリートにはヒビが入る。その割れ目に植物は根を張って生長を始める。時を経てビル群は倒壊、都市だった場所は樹木に覆われ原生林と化していく。500年後には人間が暮らしていた痕跡は跡形もなくなり、驚いたことに空気も澄んでくる。「自然の生態系を取り戻すには、ただ人間が地球から立ち去るだけでいいのだ」というメッセージが流れ、「地球に人間はいらない。だが、人間には地球が必要なのだ」という最後の言葉は印象的で余韻を残す。
さて、JR北海道車内誌「 THE JR Hokkaido」11月号。特集テーマは「始まっているエゾシカ新活用時代」。
エゾシカ問題が手際よくまとめられ、野生とのエレガントな共存方法を模索、提案している。
表紙は、貼り絵作者の藤倉秀幸氏の手によるもので晩秋の名寄市。
収穫を終えた田での最後の仕事。枯れ穂を集めて火を入れている情景との解説がある。たなびく煙が郷愁を誘う。
列車に乗らずとも書店で手に入る。定価120円。
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