◇◆◇何故、シカは鉄路に入ってくるのか?   2014.2.21


帯広市の夕焼け
帯広市の夕焼け(田原まゆみさん撮影)

 

2月21日。(一社)北海道開発技術センターが主催した第13回「野生生物と交通」研究発表会に参加してきました。そこで知ったのは、エゾシカばかりでなく、エゾリスの交通事故発生率の増加、野鳥と航空機との衝突(バードストライク)、大規模開発による森林伐採などによるコウモリのねぐらの消失等、思いもよらない人間と野生生物との軋轢。その解決に向けた企業や大学の取り組みです。


心打たれたのは、帯広畜産大学野生動物管理学研究室による「リスの橋をつくろう」という発表。大学近辺の私道が拡幅されることにより、エゾリスの道路横断時の交通事故の増加、また、生息地の分断・孤立化の増長が懸念されるとのこと。そこで、木を伝わりながら移動するエゾリスの習性を利用し、利用頻度の多い木を繋いだオーバーブリッジを作ろうとの構想です。しかしながら財力不足。何としても、この計画を実現させたいと祈らずにいられない思いでした。


さて、エゾシカについての研究発表は以下の3題。①「堆肥化プロセスを利用した野生生物死体の減量化」(北海道大学大学院農学研究院、同農学院)②「鉄道環境におけるホンシュウジカの行動調査と衝撃件数低減に向けた対策事例(日鐵住金建材株式会社、東海旅客鉄道株式会社)③「エゾシカの樹皮食いからの林木の回復形態 広葉樹類と針葉樹類の違い」(一般社団法人 北海道開発技術センター)についてです。ここでは②を選び、概略をまとめてみたいと思います。


 

衝撃を受けたのは、シカと列車の衝突事故が本州のJR東海をも悩ませていたという事実。客車のみならず、貨物列車も同様。物流が滞れば経済的にも大打撃。効果ある対策を講じるためには、シカの行動と習性の知見が必要とのことで、シカの行動調査を実施したそうです。(調査地は岐阜県内の関ヶ原地区と垂井地区)

 


「なぜ、シカは鉄路に入ってくるのか」。

調査結果は次の通り。

シカが出没するのは18:00~明朝6:00頃まで。明け方には帰っていく。つまり、警戒心が強く環境変化に敏感である。①鉄道敷地内のへ単独で侵入した時の方が事故は多い。②シカ侵入防止柵に沿って移動し、わずかに地面との隙間があれば穴を掘ってでも鉄路内に入り込んでしまう。何故、そこまで執着するのか。暗闇の中で、レールとその周りに口を付け、鉄を舐めている様子がカメラに映っています。③“鉄分を求めシカが鉄道に侵入する”という仮説は以前からあったようですが、仮説通りに“鉄分摂取”の可能性が高いことが確認されたとのことでした。 


シカは賢く学習能力がある。ここに好物があると知ったら忘れないといいます。歯の老化で寿命を迎えるシカは鉄パイプをかじり、削りとってミネラルを補給。温泉地や海岸では塩の補給。シカも必死に生きているのです。 

この習性がわかったことで、鉄道敷地内に侵入しにくい環境を形成すればよいという対策も見えてきた。具体的には、侵入防止性と脱出容易性を両立させた「侵入抑止柵」、環境変化による一時的な警戒心を利用した「侵入抑止材」、鉄を含んだミネラルによる誘因性を利用した「誘因材」の3種類を複合的に用いた簡易構造物の設置など。人との共存には境界形成(里山等)が必要であり、それには、人による継続的な維持管理が重要であるとの結論でした。


■全ては人。野生動物に関心を抱く学生は沢山いるそうですが、卒業後の就職先がないというのが致命的。国にも自治体内にも生態系破壊を防ぐための人材確保、更に、その方々がプロとして力量を発揮できる施策を講じて欲しいというのが願いです。

 

当日、会場で購入した「もうひとつの北海道 環境白書2」は、道民として、是非とも読んでおきたい一書です。