(元北海道大学農学部 竹之内一昭)
いまや、シカ問題は北海道にとどまらず、日本全域の問題です。野生動物との共生の知恵が今ほど求められているときはないでしょう。
2016.1.31 札幌市東区民センターにおいて、WEB講座を担当してくださった竹之内一之氏を講師に「エゾシカ皮活用」の勉強会を行いました。今回は、会員のみを対象としましたが、私たちだけに知識を留めることは余りにも勿体ないとの思いから、講師の了解を得てレジュメを一般公開いたします。
1.皮の活用
放置すると腐敗する → 環境汚染
廃棄処理 → 設備(費用)
革製品として活用 → 資源の有効利用 肉製品のコスト低下
2.革の特性
感覚的性質 :手触り 着ごこち 履きごこち 美しさ(装飾)
理化学的性質:耐久性 耐熱性 耐水性 吸湿性 発汗性 保温性 柔軟性 強度
革:脱毛し、鞣されているもの。
皮:鞣されていないもの。 脱毛されていないもの、すなわち毛皮。
韋:柔らかい革、特に鹿革を指す。
鞣し:腐敗しやすい動物皮を耐久性のある有用な物品に変える。
(皮のたんぱく質であるコラーゲン分子内あるいは分子間に橋かけ結合を形成して、分子構造を安定化する)
鞣し剤:燻煙 油脂 脳漿 植物エキス(タンニン) 乳汁 鉱物(クロム アルミニウム)溶液
3.動物種による特性
鹿 :柔らかくしなやか 吸水性 銀面に掻き傷(銀面除去して利用)
牛 :耐久性や堅牢性 銀面が平滑
馬 :銀面が平滑 尻部の線維が緻密(コードバン)
羊 :柔軟性 弾力性や強度が弱い
山羊:銀面模様が美しい(子山羊 キッド)
豚 :剛毛が貫通 凹凸の銀面
4.種々の鹿革
セーム革(Chamois leather):元々はカモシカの革。鹿や羊の銀面を削り取り、油鞣しをした革。
非常に柔軟で、吸水性がよく、適度の親油性を有す。
バックスキン(Buckskin):鹿類の革の銀面を削り取り起毛した革。
牛革はヌバックと称する。
一般的には油鞣しを行うが、アメリカインデアンは脳漿鞣しと燻煙を行う。
肉面を起毛したものはスェード、牛革の起毛の粗いものはベロアという。
印伝革:銀面を削り取り、脳漿鞣しを行い、燻煙処理を行い、最後に漆付けをする。
(昭和40年代頃からはホルマリン鞣し)
(金子賢治:日本の美術 342 革工芸,至文堂 1994)
5.鹿革の製品
大和朝廷時代 : 弓弭ゆはずの調みつぎ (鹿 カモシカ 猪 熊などの皮)
手たな末すえの調 (布帛)
百済と高麗からの革工の渡来
敷物 鞴 革衣
奈良・平安時代: 皮と革の貢納;信濃 参河 武蔵 上野 上総
常陸 下野等が多い
大宰府から種々の染色革や画革
鞆や胡禄、太刀の紐類 革帯 履の内張り 鞍褥
甲冑 行むか膝ばき 蹴鞠
鎌倉・室町時代: 甲冑 弓道具 皮衣 沓 足袋
江戸時代 : 革羽織 革半纏 火消装束 袋物(煙草入れ 銭入
れ 巾着)
現在 : バック類 財布 宝石や貴金属の汚れ落し 剣道具
公益社団法人 札幌消費者協会「北海道エゾシカ倶楽部」 代表 武田佳世子
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